役員報酬はいくら必要か|家計の20年見通しから逆算する決め方

役員報酬をいくらにするか。多くの社長は、会社の利益と税金を見て決めています。けれども、もうひとつ大事なものさしがあります。ご自身の家庭に、この先いくら必要か、です。
先日、経営計画づくりをお手伝いしている経営者の方と、3回目の打ち合わせをしました。この日は、ご家族の20年の家計の見通しが完成し、そこから会社の5か年の利益計画づくりに入りました。この記事では、その進め方をご紹介します。
守秘義務の観点から、お客様が特定されないよう内容を一部加工しています。
役員報酬は、ふつうどう決めているか
役員報酬の決め方として、よくあるのは次の3つです。
会社の利益が残る範囲で決める
税金と社会保険料の負担が軽くなるように決める
前の年と同じにする
どれも、会社の側から見た決め方です。抜けているのは、「社長の家庭に、この先いくら必要か」という視点です。
家計から会社の利益目標まで、4つの手順で逆算する
1. 家計の20年の支出見通しを作る
最初に、ご家族のこれから20年の支出を、1枚の表にまとめます。毎月の生活費、住宅、車、保険に加えて、お子様の進学にかかる教育費を、年ごとに入れていきます。
表にすると、支出が増える年がいつなのかが分かります。お子様の進学が重なる年、住宅の修繕がある年などです。
2. 必要な手取りから、役員報酬を出す
家計に必要な金額は、手取りの金額です。役員報酬の額面からは、所得税、住民税、社会保険料が引かれます。たとえば額面が年1,000万円の場合、手取りはおおむね7割ほどです(ご家族の構成などで変わります)。
必要な手取りから逆算すると、役員報酬がいくら必要かが出ます。今回のご相談では、「今の役員報酬のままでは、これからの支出を支えきれない」ことが、数字ではっきりしました。
3. 役員報酬から、会社に必要な粗利益を出す
役員報酬は、会社にとっては固定費です。報酬を上げると、会社が負担する社会保険料も増えます。そのうえで、借入の返済と、これからの投資に必要な利益を残さなければなりません。
会社に必要な粗利益は、次の式で出します。
必要な粗利益 = 固定費(上げたあとの役員報酬を含む)+ 残したい利益
これを5年分の計画にしたものが、5か年の利益計画です。
役員報酬には、税務上の決まりもあります。原則として、事業年度が始まってから3か月以内に金額を決め、その後は毎月同じ額を支払います。期の途中で自由に上げ下げすると、経費(損金)にならない部分が出ます。だからこそ、期が始まる前に計画を立てておくことが大切です。
4. 粗利益を増やす方法を洗い出す
必要な粗利益が決まったら、どう増やすかを考えます。このとき使ったのが、「アンゾフの成長マトリクス」です。商品と市場を、それぞれ「今あるもの」と「新しいもの」に分けて、4つの枠で考えます。
市場浸透:今の商品を、今のお客様にもっと買っていただく
新市場開拓:今の商品を、新しいお客様に届ける
新商品開発:新しい商品を、今のお客様に提案する
多角化:新しい商品を、新しいお客様に届ける
今の事業の延長だけで考えると、案は1つ目の枠に偏ります。4つの枠ごとに案を出すことで、これから伸ばせる分野が見えてきます。案を広げる場面では、AIも使いました。出てきた案の中から選ぶのは、社長ご自身です。
逆算すると何が変わるか
利益の目標に、理由ができます。「前の年より1割増やす」ではなく、「この年までに、これだけ必要」という目標になります。
時期が決まります。家計の支出が増える年から逆算して、いつまでに粗利益をいくら増やすかが決まります。
会社と家計を、別々に考えなくなります。会社の数字は、社長の人生とつながっています。
目標が決まれば、そこから逆算して、打つ手が決まります。
決算書は過去の成績表、計画は未来の設計図
決算書は、過去の成績表です。経営に必要なのは、これから何をするかを示す設計図です。
当事務所の未来会計コンサルティングでは、会社の利益計画と毎月の月次決算に加えて、社長ご自身の生活設計、資金繰りと融資、その先の事業承継までを、ひと続きのものとして考えます。
まとめ
役員報酬は、会社の利益と税金だけでなく、家計にいくら必要かからも考えます。
家計の20年の見通し、必要な手取り、役員報酬、会社に必要な粗利益の順に逆算します。
役員報酬は期の途中で自由に変えられません。期が始まる前に計画を立てます。
「顧問の税理士はいるが、申告と記帳だけで、経営の相談相手にはなっていない」という方は、当事務所の無料相談をご利用ください。いまの顧問の税理士はそのままでご相談いただける、経営セカンドオピニオンもあります。
この記事は、一般的な考え方の説明です。税金や社会保険料の金額は、会社やご家族の状況によって変わります。
この記事は、2026年7月7日に Facebook へ投稿した内容を、ブログ用に書き直したものです。
この記事を書いた人
松本 裕之(税理士)
松本裕之税理士事務所(広島市中区)代表。中国税理士会所属、税理士登録番号 第104810号。2006年に税理士登録、2013年に開業。税務顧問のほか、月次決算と経営計画、融資支援、国際税務、事業承継を扱っています。

